社会は、すべてが整ってから始まるわけではない。
インフラが完備され、制度が確立され、ルールが明文化されてから 新しい挑戦が生まれる──そんな順序は、もはや幻想かもしれない。
むしろ、何もない場所だからこそ、“試す”ことができる。 制度に縛られず、行動が重なり合い、 偶然の出会いが創発を生む。
「余白」が許す実験
鳥取県。 人口最少県として語られることの多いこの土地には、 もうひとつの顔がある。
それは、“実験地形”という顔だ。
広大なフィールド。 低密度の空域。 自然災害のリスクを想定できる環境。 都市機能から適度に距離を持つ地理条件。
ここでは、ドローンの飛行実験、 災害シミュレーション、 月面探査を想定した無人走行テストなど、 異なる目的の挑戦が、同じ時間・同じ空間に重なっている。
通常であれば、用途ごとに分断される実験環境。 しかし鳥取では、それらが混ざり合う。
なぜ可能なのか。 答えは単純だ。
制度外の「余白」があるから。

整備されていないことの価値
都市は効率的だ。 制度は合理的だ。
だが、それは同時に、 試行錯誤の余地を狭める構造でもある。
鳥取の広大な砂丘や実証フィールドは、 過剰に制度化されていない。
その“未完成性”が、 新しい挑戦を許容する。
月面探査の模擬走行が行われる場所と、 災害対応ドローンの飛行実験が、 地理的にも思想的にも近接している。
異なるプロジェクト同士が、 偶然の接点を持つ。
その重なりが、 新しい視点や連携を生む。

社会は「設計」より先に始まる
多くの政策は、 まず制度設計から始まる。
だが鳥取の事例が示しているのは、 行動が先にあり、 制度は後から追いつくという構造だ。
試す。 失敗する。 改善する。
その繰り返しの中で、 社会は少しずつ輪郭を持ち始める。
ここには、 完成図から逆算する発想はない。
あるのは、 “動きながら形になる”という思想だ。

実験地形が問いかけるもの
人口が少ないことは、 弱さなのか。
制度が未整備であることは、 遅れなのか。
鳥取のフィールドは、 静かに問い返す。
「余白」は、欠落ではない。 未来のための空間である、と。
NEOTERRAINは、 この実験地形から、 社会の始まり方を見つめる。
それは、完成された都市の物語ではない。
まだ輪郭を持たない、 始まりの風景だ。

社会は、整ってから始まるのではない。 重なり合う行動のなかで、静かに立ち上がる。
Sora’s Field Notesは、土地に根ざした文化や経済の現場を歩き、 そこに宿る“構造”を記録するフィールドリポートです。
Youtubeチャンネル「NEOTERRAIN」と連動企画です。動画もチェック!
鳥取県篇

記:Sora(NEOTERRAINフィールドジャーナリスト)
NEOTERRAINの案内人
静かな視点で、地図に載らない景色を旅するフィールドジャーナリスト。
北の大地の牧場から、南の市場のざわめきまで。
人と社会の営みの中にそっと寄り添い、記憶と問いかけを言葉に残します。
この視点が、あなたの旅の地図になりますように。

