一本の直線が、砂漠を切り裂く。果てしなく、静かで、途切れることなく。
それは、単なる建築ではない。ひとつの「思考の線」だ。
サウジアラビアは今、国家というスケールで未来を設計するという、稀有な試みに挑んでいる。

国家が未来を設計するということ
サウジアラビアの変化を理解するうえで欠かせないのが、 国家戦略「Vision 2030」だ。
それは単なる経済政策ではない。
石油に依存してきた国家が、その先の文明像を描き直すための設計図でもある。
市場に委ねるのではなく、国家が未来像を定義する。
この大胆さこそが、サウジの現在地を象徴している。

砂漠に引かれた一本の線
その思想は、NEOMという都市構想に結晶している。
とりわけ象徴的なのが、直線都市「The Line」だ。 車も道路もなく、 すべての生活機能が20分以内に集約される。
効率の極致とも言えるこの都市は、 問いを突きつける。
便利さは、幸福なのか。それとも、管理された自由なのか。

祈りのそばに、インフラがある
サウジアラビアは同時に、 世界最大級の宗教的聖地を抱える国でもある。
毎年、何百万人もの人々がここに集う。革新のためではなく、信仰のために。
精神的な献身のすぐ隣に、巨大なロジスティクスがある。
祈りのそばに、インフラがある。
信仰とグローバル経済を、 同じフレームの中で両立させようとする国は、 そう多くはない。
サウジアラビアは、 その緊張関係のただ中にある。

保存ではなく、体験として編み直す
近年、サウジアラビアは 観光国家としての立ち位置も描き直している。
古代遺跡。
砂漠の風景。
長く、見えないままにされてきた文化資産。
際立っているのは、 単なる保存ではなく、 体験として編み直すことだ。
この国は、 世界に向けて、そして自らのために、 物語を書き換え続けている。
それはブランディングであり、 同時にアイデンティティの再構築でもある。

解禁される未来
映画館が、再び灯りをともす。
音楽フェスが、街に戻ってくる。
女性たちが、ハンドルを握る。
かつては想像すらできなかった光景が、 いまや、日常として立ち現れている。
自由は、必ずしも街角から立ち上がるものではない。
ときにそれは、上から解き放たれる。
サウジアラビアでは、 未来は「布告」としてやってくる。
この変化を、人々がどのように受け止め、 自分のものとしていくのか。
その答えは、まだ開かれたままだ。

答えではなく、鏡
サウジアラビアは、 成功物語でもなければ、 教訓としての失敗談でもない。
それは、ひとつの予告編だ。
国家がイノベーションを設計し、効率が自律性に挑み、自由さえも設計される世界の。
私たちが見ているのは、答えではない。
これから訪れるかもしれない未来の、ひとつの下書きなのだ。
この国が差し出すのは、結論ではない。
ただ一枚の、鏡だけだ。


