アウトドアブランド Patagonia が、新たな包括レポート 「Work in Progress Report」を公開。
創業52年目、“地球を唯一の株主に”という大胆な所有構造の転換から3年。
企業のミッション、事業活動、エコシステム貢献を「進行中の挑戦」として可視化する試みだ。
■ ブランドは、どこまで「地球のための会社」になれるのか
2025年11月13日、パタゴニアは会計年度(2024年5月1日〜2025年4月30日)を対象とした 「Work in Progress Report(進行中レポート)」を公開した。 本レポートは、環境・社会・経営の取り組みを単なる“実績”ではなく、 「今まさに取り組んでいる実験」と位置づける点に特徴がある。 (引用元:PR TIMES)
パタゴニアは 2022 年、創業者イヴォン・シュイナード氏と家族が 同社の所有権を Holdfast Collective / Patagonia Purpose Trust に移管し、 「超過利益は地球のために使う」という異例の経営体制を整えた。 この構造は、同社ミッションである “We’re in business to save our home planet.”(私たちは故郷である地球を救うためにビジネスを行う) を、制度として保証する仕組みだ。
■ 透明性を“誇示”ではなく、“対話の起点”に
インパクト・コミュニケーション最高責任者 Corey Kenna 氏は、 「私たちは完璧ではありません。このレポートは成果を誇るものではなく、 透明性を高め、対話を生むためのツールです」と強調する。
レポートは成果の列挙ではなく、むしろ 「まだできていないこと」 を含めて開示していることが特徴的だ。 企業が“進行中の実験体”として、自らをオープンにする姿勢は、 サステナビリティ文脈における新たな透明性モデルとも言える。
■ レポートの4つの柱
「Work in Progress Report」では、事業活動を以下の4テーマに整理している。
- 1. 責任ある事業活動: 自社はどこまで「責任あるビジネスの実験体」になれるのか
- 2. 製品: 高品質で長く使えるものをつくり、必要な衣服の総量を減らす挑戦
- 3. 地域社会への貢献: “自然とつながる体験”を通じて、環境活動家を育てる
- 4. エコシステムへの寄与: 気候・生態系の危機に対し、自社資源をどう投じていくか
とくに注目すべきは、ビジネスの根幹である 「販売量を増やす」ことを目的にしない という逆説的戦略だ。 長く使える製品をつくることは、売上の最適化と緊張関係を持つ。 その矛盾を抱えたまま、より良いモデルを模索し続ける“実験”として提示されている。
■ “地球を株主にする”という構造のデザイン
従来のB Corpレポートやフットプリント情報ページを超えて、 企業の存在理由・所有構造・製品哲学・コミュニティ・生態系貢献までを 一体として提示したのが今回のレポートだ。
Patagonia Purpose Trust がミッションを守り、Holdfast Collective が自然保護活動を支える。 企業活動と地球環境を制度的に連動させる“仕組みのデザイン” は、 今後の企業のモデルケースになりうる。
■ Business Field 視点:これはブランド戦略ではなく、“社会システムの実験”である
NEOTERRAINの視点から見ると、今回のレポートは、 単なるCSRではなく「企業そのものの再設計」に関するドキュメントといえる。
- 地球を株主にするという所有構造の転換
- 利益を環境NPOに循環させる非線形モデル
- 売らない・買わせないという逆説を内包した製品戦略
- 透明性の“誇示”ではなく“対話”としての公開
これは“ブランドコミュニケーション”ではなく、 未来社会のOSを書き換える実験である。
環境危機が深刻化するなか、企業の役割は市場での競争だけではなく、 社会システムをどう再設計するかへと移行している。 パタゴニアのレポートは、その潮流の最前線に位置する象徴的事例だ。

